彩色設計彩色設計

Business事業内容

保全・保存Conservation

絵画や塗装の剥落止め、
および美観維持のための調整工事
彩色塗膜の採取保存
(特許取得済)および各種クリーニング

文化財修復における基本的な考え方として、現状の維持とそのための環境整備があげられます。
しかし既に外観が大きく損なわれているケースでは、劣化を一時的に遅らせる処置だけでは、美術的あるいは宗教的価値が損なわれることもあり得ます。また建物や彫刻、石塔や金具など往々にして機能や強度にも支障を来しているものが多く、存続のために外観を犠牲にしなければならないケースもあります。
現状を維持しつつも、後世での修理のしやすさを考慮すると共に、関係各者や施主、所有者とも意見交換を行い、文化財の意義を保ちながら適切な美観を維持する手段も探り続けることが重要と考えます。

01剥落止め

経年劣化で亀裂や剥離を生じたり、粉状になった塗膜を基材に再定着する手法で、文化財における保存修理の基本となっています。

剥落の種類

剥落の種類には大別して、塗膜がひび割れて浮上がったようになる層状剥離と、表面が粉を吹いたようになる粉状剥離があります。

層状剥離の例
粉状剥離の例
彩色で用いる絵具

絵具や塗料は、顔料(色の粉)とバインダー(液状の接着成分)を混ぜ合わせて作られているため、経年劣化によってバインダーの接着力や結合力が落ちてきた時に、下地から剥がれたり、塗膜がバラバラになるといった状態が生じやすくなります。

絵具の材料例(左上=膠、左下=膠液、右=顔料)
顔料と膠液を混合して絵具を作る
剥落に至る過程


1. 絵具の塗布


2. 塗布後はバインダーが十分な接着力を保っている


3. 経年劣化によりバインダーの接着力や柔軟性が落ちて剥落が生じる

剥落止めの手法

剥落止めは、経年劣化によって剥離が生じた塗膜を再び基材に接着する手法で、基本的には保存したい塗膜と同種のバインダーを使用します。剥落止めの基本は、状況に合わせて最適な用具で、塗膜と基材(木地)の間にバインダーを入れることです。天然のバインダーは気温に対する粘度の変化が大きいため、常に濃度や温度に注意しながら、既に脆弱になっている塗膜や、析出している顔料粉をできる限り動かさないように、注意を払いながら作業を行う必要があります。

層状剥離の修理例


1. 木地から塗膜が浮いた状態


2. 細筆や注射器で膠液を塗膜の裏側に注入する


3. 塗膜を圧着して木地に再接着

粉状剥離の修理例


1. 顔料が木地から浮いた状態


2. 刷毛やスプレーで膠液を全体に塗布


3. 全体を圧着して木地に再定着

施工例
五重塔の内部彩色
頂相

02彩色塗膜採取法

現存する塗膜を剥離して、別途保存する手法です。
表層の塗膜を剥離した際に、昔の彩色の痕跡が現れることもあり、調査に関る手法としても有用です。
【特許第4787984号

上張り

採取したい塗膜面の埃等を予め払った後に、大きめの化繊紙をあてて、上から膠液を塗布して張付けます。
その後化繊紙が塗膜にしっかりと密着したことを確認し、その上から寒冷紗を置き、先と同様に膠液を塗布して張付けます。

剥ぎ取り

十分に乾燥させた後、接着の様子を確認しながら、慎重に上張りを剥がしていきます。
塗膜の密着が不十分な箇所は、再度膠液を塗布して上張りに接着させます。

含浸補強

剥ぎ取った塗膜の裏側から、樹脂液を塗布して塗膜全体を補強します。塗膜以外の部分に樹脂がはみ出さないように注意します。

転写

塗膜を和紙や板等に移し置きます。移したい素材の上に補強済の上張りを樹脂で接着します。樹脂が十分に乾いたことを確認した後に、お湯をかけて、膠の接着を緩めます。膠は水に対して可逆性があるため、お湯をかけると再び溶けますが、樹脂は水に溶けないため、塗膜の状態を維持したまま、上張りを剥がすことができるようになります。
最後に塗膜の表面に残留している化繊紙や、ゴミ等を丁寧に取除いて完成。

施工例
寺院内外陣の彩色

復原に際し、現状塗膜の保存を目的とした施工中に下層から古い時代の彩色が見つかった例。

神社の社殿壁面

現存の板絵の下に昔の痕跡を発見し、調査と復原画制作を行った例。

簡易塗膜採取保存の基本手順

後の復原のため、現状の塗装や彩色を保存しないことが決定している場合においても、塗装の実物が残っていると施工終了までの継続的な調査や確認に役立ちます。また搔き落としではなく塗膜採取は、表層だけでなく塗膜の裏面や下層の旧塗装の残存が確認でき、木地の凹凸へのダメージが少ないことから斜光調査がより有効に行える等、様々なメリットがあります。

03クリーニング

彩色や漆箔の表面に付いた埃や油煙等を除去し、美しい外観を取り戻します。
新調が必要とされる場合でも、クリーニングで美観を取り戻せる場合があり、本来の姿を残しながら、コスト削減ができるケースもあります。

塵埃の除去

最初に水や洗浄のための薬液を使用しない、乾式のクリーニングを行い、表面に堆積している埃等を取除きます。

洗浄液の塗布

クリーニングの対象となる物品の、素材や表面処理(彩色、漆箔など)に応じたクリーニング用の洗浄液を使用して、より強固に密着している汚れを取除きます。
洗浄液は直接塗る手法と、養生紙を介して塗る手法があり、状況に応じて使い分けます。

仕上げ

余剰な洗浄液を拭取り、仕上がりを確認します。汚れがしつこい場合は、数回に渡って同じ作業を繰返します。

施工例
寺院内陣の柱彩色

テストケースでの作業。ほぼ油煙で黒変していた彩色部位の洗浄において、本来の色味を確認することができた例。

位牌

油煙で汚れていた位牌のクリーニング例。木地の破損や漆箔の剥がれについても、自然な仕上がりになるよう、調整を併せて行った。