彩色設計彩色設計

Business事業内容

復原Restoration

彩色、絵画、漆塗り、単色塗り、チャン塗り、桐油塗装、金箔押しなどの伝統工法による修理、復原、模写制作、および美観維持のための強化紙製彩色保護カバー工法(特許出願済)や、木材、石材の外観修復

復原はその名のとおり、彩色や塗装を元の姿に戻す作業です。彩色の場合は事前の各種調査に基づいて、同等の絵具を使用して完成予想図にあたる「見取図」を製作した後、専門家との協議を経て最終的な仕様を決めて施工します。実際の仕様決定や施工に際しては史実や分析結果のみならず、現代の保存に関る管理環境に必要な強度や耐久性、メンテナンス性等の条件、また各種の規制や需給バランスのために既に従来と同等の材料や用具が失われてしまっているケースにも対応しなければなりません。
完全に元の姿を知り、同じく再現することに絶対や正解はありませんが、想像力と客観性のバランスを保ちながら、現在の条件下で可能な限り元の姿に近かったであろう彩色や装飾を体現することに努めています。

01彩色復原

各種の調査に基づき、同材料、同技法を基本とした伝統技法によって、彩色の復原を行います。主にバインダーに膠液を用いた絵具で絵画や文様を描きます。
建造物の構造部材や板面に直接描く「直彩色」、和紙に描いたものを部材に貼る「紙彩色」、金箔を押した彫刻等で、部分的に色を付ける「生彩色(いけざいしき)」等の手法があります。

調査〜見取図制作

復原を行う場合、調査を行った後に内容を整理し、草稿図という下描きを起こします。その後実際に使用する絵具で、いわゆる完成予想図となる見取図を制作します。

礬水〜胡粉塗り

旧塗装の搔き落としが済んだ部材に、吸込み止めと、塗装の密着をよくするために礬水(どうさ)を塗布します。礬水は膠液に明礬を溶かしたもので、木地の吸込みがある程度無くなるまで、様子を見ながら塗り重ねます。
その後、彩色の下地となる胡粉を塗ります。胡粉塗りも仕上がりの状態を確認しながら、数回塗り重ねます。

転写

草稿と部材の間に、念紙(木炭や水干絵具等を酒で溶いて薄い和紙に塗布したもの)を挟み、草稿の線をボールペン等の先の硬い筆記具でなぞって絵を写します。いわゆるカーボン紙のようなものですが、彩色後に線が残らないよう定着が弱いのが念紙の特徴です。

置上げ〜箔押し

金箔を押す部分の形状を盛上げ、立体感を得る技法を置上げと言います。置上げを施すことで、仕上がりに高級感が得られます。置上げには、丹と胡粉を混ぜた丹具という粘度の高い絵具を使います。
置上げが完全に乾いた後、上に膠液を塗り、その上に金箔を押していきます。

彩色

箔押しが終わった後に、薄い配色から濃い配色にかけて塗り進めていきます。金箔部分や既に塗り終えた部分を汚さないよう、注意しながら塗り斑や透けがないように、色毎に複数回塗り重ねます。最終的に輪郭線を墨で描いて完成となります。

02彩色強化紙カバー【特許取得済】

建築部材と同じ形状のカバーの上に、伝統技法による彩色復原を行い、部材の上から被せて現存の彩色の保護と、復原による美観の再現を同時に行う新しい手法です。
カバーは漆で含浸形状固定化した強化紙製で、軽く耐久性に優れ、脱着が可能です。
文化財における保存の意義と、彩色復原による装飾や美観の意義を折衷できる案として開発した手法です。

強化紙とは

強化紙は木材繊維を主原料とした非常に硬質なボード状の紙で、強靱性が必要な梱包用部材や靴の中底の構造材等として使われています。
材料の強度を図る際の重要な機械的性質の一つとして「引張り強度」があります。これは材料を一定の力で引き延ばして 破断に至るまでに耐えた数値を基に計算されます。強化紙は一 般的な樹脂素材よりも優れた特性を持つ一方で、軽さや曲げ加工の容易、吸湿性等、紙独自の特性を併せ持ちます。

主な材料の引張り強度
採寸・裁断

カバーを取付ける部材や、取付け箇所に付いて採寸を行います。古建築は歪み等も内在しているので、数字を計るのみならず、同時に紙を当てて型取りします。その後必要な形状や数量をまとめた後、1枚の原紙から効率の良い部品の取り数を決めるためのパターン設計をし、設計に基づいて強化紙を裁断します。強化紙は一般的な樹脂板よりも硬いため、曲線のカット等では糸のこ盤等の電動工具も使用します。

成形・漆含浸

これほどまでに強靭な強化紙ですが、紙の特性を持ち合わせているため、治具を使用しながら水分や温度をコントロールすることで、曲げ加工後にも形状を維持することが可能です。
更に生漆を塗布して含浸させることで、乾燥後は更に形状が固定され、また漆の特性である防腐性や防虫性も付与されます。
漆工技法のひとつに、布や紙に漆を塗り固めて形状を作る「乾漆」というものがありますが、強化紙カバーの形状固定方法はこれに相似する考え方と言え、文化財や伝統建築の復原に適していると考えます。
(現代のプラスチック成形技術であるFRPは、同じ原理をガラス繊維と樹脂で置換えたもの)

彩色復原

復原の項目で紹介したのと同じ手法と工程で、強化紙カバーの上に彩色を施していきます。基材が紙と漆なので、彩色についても伝統工法がそのまま応用できます。

取付け

彩色された強化紙カバーは、ビスや他の固定用補助部材で対象箇所に取付けます。通常の紙彩色と異なり、全体を糊で貼る訳ではないため、下層の状態を維持したまま、伝統工法による彩色復原の外観を得ることができます。
強化紙カバーは軽量なため、耐震や落下による事故防止の観点からも優れます。

施工例
寺院本堂

近代建築の本堂における、内外陣の荘厳彩色の保全を目的として、特に破損が著しい柱巻きについて採用された例です。漆喰層の上に施されていた彩色層は剥落止め保存し、その上に周囲と併せた色調の復元彩色を行ったカバーを取付けました。

03漆塗り

漆の木から採れる樹液を主原料とする、天然樹脂塗料を使用した、日本を代表する塗装や装飾に関る伝統技術です。長い歴史の中で高度に洗練され、美しい表現のための様々な技法や材料、用具が生み出されています。

漆塗りでは、木地の状態や最終的な仕上がり、また加飾(工芸技法によって表面に装飾を加えること)に応じて工程が大きく変わります。実際の漆塗りでは、使用される材料や工程の呼び方が多岐に渡りますが、以下の例では標準的な黒漆塗りの古材に、木部修理が加えられたものについての概要を示します。

木地調整

漆に限らず、塗装で美しい仕上がりを得るには、下地がきれいであることが重要です。

特に古材を再利用する場合は、木地の劣化に加え、旧来の塗装の残留や木工の修理など、塗装表面に影響を与える要素が非常に多いため、それらを丹念に修正する必要があります。

木地調整では、主に表面を平滑にする地ならし的な作業と、木地を堅牢にしつつ安定した木地表面の状態を得るために生漆を塗る「木地固め」を行います。

布着せ

木地を堅牢にし、欠けやひび割れ等を防ぐ目的と同時に、厚み感のある美しい仕上がりを得るために、表面に布を貼付けて固める技法を「布着せ」と言います。

建築物における修復の場合は、主にひび割れや部分修理の継目等で、経年後の痩せや段差を発生し難くする目的で行います。

布着せでは、一般的に麻布や綿糸を粗く平織りにした「寒冷紗」という布を用い、接着には漆に糊を混ぜた「糊漆」を使用します。

布着せ後は、再び全体に錆付けを行い、表面を研いで平滑に仕上げます。

錆付け・錆研ぎ

生漆に砥の粉や地の粉を混ぜてパテ状に練った「漆錆」を木地の表面に塗り、乾燥させた後に水研ぎを行って表面を平滑にします。塗装前の下地の段階で、平滑に仕上げておくことが仕上がりの美しさに直結する重要な作業です。

厚みを付けすぎると割れの原因や、組付け時の寸法に影響が出たり、逆に研ぎ過ぎて部分的に木地が出ると、塗装の艶に斑等が発生するため、薄くかつ平滑に仕上げるには技術が必要です。

塗り

下地が仕上った後、いよいよ塗りに入ります。塗りは下塗り、中塗り、上塗りの3回を基本としますが、細部の修正の有無や仕上がり具合によっては、それ以上の回数を重ねることもあります。

また各段階では、塗装の密着をよくする目的で、砥石や耐水ペーパーを使用して表面を水研ぎします。(仕上がりに近くなる程細かな目の砥石を使い、傷が入らないようにします)

施工例
須弥壇
扁額


調査の結果、螺鈿細工が施されていたことが分かった、非常に珍しい扁額。

04単色塗り

バインダーに膠液を用いた塗料を使用する伝統技法です。神社等における丹塗りや板壁の白塗等、いわゆる単一の色を塗る塗装手法です。
単色塗りはその名のとおり、文様や絵画を描かず単一の色を塗装する手法の中で、膠をバインダーにした技法を指します。神社の社殿や、木造建築における垂木や濡れ縁などの木口塗りでよく見られます。

礬水引き

礬水引きとは礬水を塗布する意味で、建築塗装の場合は木地の吸込みを抑制し、塗装の密着性を上げる為に行います。(木地固めと呼ぶ場合もあります)

実際の施工では、予め清掃や脱脂(アルコール等で表面を拭いて、油分を取除く)を行った後に、吸込みが収まるまで複数回塗布と乾燥を繰返します。

隠蔽性やアク止めの効果は弱いので、材の状態や施工条件によっては予め近代的な手法で、下地の調整をする必要が有ります。

塗料作り

塗装に必要な塗料を作ります。塗料は顔料に膠の水溶液を混ぜて作りますが、膠液は作り置きに適さない(接着力の低下や腐敗が起り易い)ため、塗装直前に都度作りますが、色によって顔料の比重や粒度が異なるため、溶き方も個別に異なります。

顔料を溶く際は、顔料が満遍なく膠液に拡散するように、一度に膠液を入れず、一旦団子状にできる程度に練り、何度も叩いたり伸ばす等して、十分に膠分を顔料に馴染ませた後、膠液と水で溶いて必要な濃度の塗料に仕上げます。

塗装

刷毛で薄くムラなく塗装することを、複数回繰返します。単色なので一見単純に見えますが、伝統材料の特性を知り、塗装環境を加味しながら作業を進める必要があります。

例えば胡粉(白)は塗った直後は隠蔽性が無く下地が透き通って見えますが、乾燥が進むにつれて白く発色するため、最初から隠蔽しようと厚塗りすると、割れや剥離の原因になります。

また膠液は気温によって粘度が敏感に変化するため、粘度が上がった場合に安易に膠液や水を加えて希釈すると、膠の濃度が上がりすぎて変色を起こす膠焼や、膠液の濃度低下で密着不良や、耐久性が著しく落ちる原因になります。

施工例
御殿の破風板・垂木・濡れ縁

05チャン塗り

バインダーに荏胡麻油に松脂(チャン)を加えたチャン油を用いた塗料を使用する、塗装の伝統技法です。

資料や実例が少なく、廃れた技法とされていましたが、近年の分析技術の向上と古文書の研究から、実際には過去に広く使われていたことが分かってきました。

チャン塗りとは、バインダーに「チャン油」を使用した塗料で塗装を行う伝統技法です。油という漢字が付くとおり油性塗料に分類されますが、一時期ほぼ完全に廃れた状態になっていました。

世界的に見ても伝統的な塗装では、油性と水性の材料や技法が確認できますが、日本では膠と漆に関わる技術が飛躍的に高かったため、油性塗料はあまり注目されず、また近代化に伴って特に油性塗料は工業材料への置換えが容易であったことから、伝承が途絶えたと考えられます。

弊社では過去の調査業務において、膠とも漆とも判断がつき難い事例を数多く経験する中で、予々油性塗料の存在を模索しており、独自にチャン油に関わる材料や技法の資料収集と試作を通じて復刻を試み、最終的に実際の修復において採用されるに至りました。他方、全国各地の修復や保全に関る関係者の調査や分析技術の発達に伴い、この油性塗料による事例が以外と多くあるかもしれないことも分かってきました。

「チャン」の名称の由来にはいくつかの説がありますが、弊社では松脂のことを指していたと考えており、チャン油とは煮熟して乾燥性を高めた荏胡麻油に、天然樹脂である松脂を加えて艶性や塗膜強度を上げたものであったと想定しています。いずれにしても伝統技法は、総じて材料や手法共に地域毎の環境の影響が大きく、画一的ではなかったと考えられることから、研究が進むことによって材料や塗料の製法にも様々な異なる事例が出てくると思いますが、弊社の取組みもその一助になることを期待しています。

チャン油制作

チャン油は市販されておらず、自社で作る必要があります。
本例ではある古文書の例に則り、

  1. 1. 荏胡麻油(乾性油)
  2. 2. 松脂(樹脂成分)
  3. 3. 密陀僧(乾燥促進剤)
  4. 4. 薫陸(樹脂成分/芳香成分)
  5. 5. 乳香(樹脂成分/芳香成分)
  6. 6. 唐辛子(乾燥促進剤)


を加える制作過程を示します。
しかしながら、チャン油についてはベースが荏胡麻油であるという共通点以外、添加物や製法について他のやり方も存在します。

色チャン制作

色チャンとは、顔料にチャン油を加えて作った塗料を指します。作り方は膠での塗料作りなどと同様で、顔料に少なめのチャン油を加え、よく練り込んでペースト状にした後に、必要な粘度になるようにチャン油を加えて伸ばします。

もともと乾燥性は高い方ではないので、塗装環境によっては油絵の具用の乾燥剤を添加する場合もあります。

チャン塗りにおいても、他の塗装同様に厚塗りを避け、複数回塗り重ねて仕上げます。

チャン塗り

古材における復原作業では、木地の吸込みが大きい場合が多く、吸込みが強すぎると乾燥不良に繋がる可能性があるため、予め礬水引きを行い、吸込みを押さえるようにします。

チャン塗りにおいても、他の塗装同様に厚塗りを避け、複数回塗り重ねて仕上げます。

06唐油(桐油)彩色

バインダーに桐油を用いた塗料を使用する、塗装や彩色の伝統技法です。
中国を中心に東アジアから東南アジアまで広く行われてきた塗装方法ですが、日本では漆と膠の用法が主となり、桐油を用いた塗装は沖縄県だけで見ることができます。

転写

他の彩色復原同様に、対象となる部位に見取図の図案を転写します。本例では図案の下地全体に白色の塗装をするため、最初は図案の外周のみを転写しています。

桐油塗料は油性なので、カーボン紙等の油性のインクで転写しても、塗装の際にはじかず塗ることができます。

下塗り

下塗りの白を塗ります。桐油彩色のようにバインダーが油の場合は、通常膠彩色で使用する胡粉は色が透けてしまうため使えません。そのため鉛白やチタニウムホワイト等の、金属系顔料を使用する必要があるということが、膠彩色と最も異なるところです。

また桐油絵具は粘度が高く、塗り厚やバラツキがあると容易に縮みが発生するため、通常の彩色用の刷毛や筆ではなく、漆刷毛や油画の筆を使用して塗装します。

再転写

下塗りの上に彩色を行うため、再度図案の転写を行います。

彩色

配色に基づき、厚みを均一に保ちつつ、透けや色斑がなくなるまで、各色の桐油絵具を数回に分けて塗っていきます。

桐油絵具は、使用する顔料によって隠蔽性や乾燥に大きな差が生じるため、色毎に様子を把握しながら塗る必要があります。

07箔押し

絵画や彫刻において、金箔やその他の金属箔を貼ることを指します。バインダーとして、漆や膠を用います。

08美観修復

木材や石材における損傷や風化、あるは別の補強等の修理のため、外観が損なわれたものについて、周囲の環境と馴染むように修復、調整する手法です。

09美術工芸品修理

各種の美術工芸品について、部分的な欠損、退色や変色、汚損といった外観上の問題に対して、美観の観点から部分的な復原や調整を行うものです。素材や製法の特性上、同等の材料での修理が可能な場合はそれらを使用し、またそうでない場合は樹脂材料等を適宜使用しますが、現存部分との調和を計りながら違和感が無いように仕上げます。

陶器人形

個人所蔵の陶器製人形について、部分欠損の修理を行った例。表面がちりめん皺のような仕上げがなされていため、造形段階でテクスチャーまで再現した後に、補彩色による色合わせを行った。

有彩色塑像

個人所蔵の彩色が施された塑像について、色落ちしている部分の修理を行った例。

仏像

寺院所蔵の小さな三尊像のうち、一躰だけ無くなっていたものについて、新しく彫刻した後に現存の二躰に併せて彩色を施した例。単に似せた色で彩色するのではなく、一旦きれいに彩色をした後に、古色付けを行い仕上げた。