彩色設計彩色設計

Business事業内容

調査Investigation

文化財、社寺建造物および美術工芸品における、
塗装や装飾に関する各種調査と分析

調査の基本は目視や各種の科学的手法を用いた調査で、それらと併せて時代や様式、地域性等における類例も調査します。近年では人間の経験値よりも客観的データが重視されがちですが、部分的に抽出されたデータを繋ぎ合わせ、装飾の意味や制作の手続きを含めた姿を導き出すためには、やはり豊富な経験値が不可欠です。一方で、経験による固定概念に縛られず、実存する対象物をつぶさに観察し次世代に正しい情報を伝えることが重要だと考えます。

01目視調査

目視によって、実存する彩色の状態や痕跡を確認し、記録します。

トレース

対象物の上にPETフィルムを当て、現状の状態を詳細に記録します。

写真撮影

最初に調査対象の部位をデジタルカメラで撮影しておきます。

透明フィルムへの記録

透明のPETフィルムを対象部位の上から当て、痕跡を記録します。

現存している部分だけでなく、痕跡として残っている部分も全て記録します。

記録内容の整理

記録した痕跡について、配色や塗装構造(塗り重ねの色や階層、顔料の特徴等)、筆跡の特徴や不明確な部位についてのコメント等も書き入れます。

清書

フィルムに記録した内容を和紙に描き直し、必要な注釈を加え、記録物として保存し易いように清書します。

類例調査
関連物件彩色調査の例

本例では、施工対象物件における調査見取図制作の参考のため、他の歴史学的調査情報を元に、施工対象物件の寺廟(赤囲み)の敷地から移築されたとされる物件(黄色囲み)について、彩色文様や図像の関連性調査を行い、一定の様式があることを確認することができました。

02光学調査

斜光、赤外線、紫外線、X線を使用して、通常光で見えない部分を調査します。

斜光調査

斜光ライトと呼ばれる照明機器を使用して、主に彩色や部材表面の経年劣化による凹凸を観察します。

斜光調査の原理

同じ形状のものでも、光の強さや角度で見え方は大きく変わります。斜光調査はこの原理を応用し、モノの表面の微細な凹凸を観察する手法です。

斜光ライト

斜光調査には専用の「斜光ライト」を使用します。斜光ライトは対象に近い位置からできるだけ幅広く平行に光を当てるため、発光部が薄く作られ、また明るさも容易に調整できるようになっています。

従来は高輝度の光源としてハロゲンライトが用いられましたが、電源や電球の大きさと発熱の問題のため、光源と発光部を分け、光ファイバーで繋いで熱が伝わらないよう工夫がされた「コールドスポット」と呼ばれるものが主流でした。

現在では乾電池で駆動できる、高輝度のLEDが開発されたため、小型で持ち運びが容易なポータブルタイプが主流となっています。

従来型の斜光ライト
現在主流のLEDポータブルタイプ
斜光調査の例

木造建築の彩色では、色調(顔料)あるいは塗り重ね回数の違い等で、木地に対する紫外線や風雨の影響に差が生じ、経年劣化による木の痩せに対して微妙な凹凸、即ち文様や絵画の輪郭等に沿った凹凸が、材の表面に残ることがあります。それらは通常光ではほとんど見えませんが、斜光ライトでははっきりと確認できます。

赤外線調査

赤外線ライトと赤外線撮影ができるカメラを使用して、絵具の退色や、ロウソクや線香などの油煙あるいは埃等の堆積で見え難くい状態の絵を観察します。

赤外線とは

可視光線より波長の長い赤外線は散乱が少なく、煙や薄い布などを透過する特性を持っています。その特性を利用することで、埃や汚れあるいは反射で見えにくいものでも観察する事が可能になります。赤外線は目には見えないため、赤外線を捉えることができるカメラに、特殊なフィルターを取付けて撮影します。

赤外線撮影の機材

一般のデジタルカメラは、光を電気信号に変える撮像素子に余分な光線が入らないように、赤外線をカットするフィルターが内蔵されていますが、赤外線撮影用のデジタルカメラではそれが解除できるようになっています。

また撮影条件を一定にし、安定した画像を得るために、特定の波長だけを効率的に通すフィルターを装着します。

赤外線は目に見えないだけで、至る所に存在しますが、より鮮明な画像を得るために、対象物に赤外線をあてるライトも使用します。

赤外線撮影の例

赤外線撮影は赤外線だけを捉えるため、撮影対象がどれだけ赤外線を反射しているかの強弱に伴うモノクロ画像となります。赤外線は特に黒い色に吸収されやすいため、主に墨で描かれた線を観察するのに適しています。

紫外線調査

紫外線ライトを使用して、彩色に使用されている色料の特性を観察します。

紫外線調査とは

赤外線が物に対して熱的な作用を及ぼすのに対し、紫外線は様々な化学的作用を及ぼします。その中で、紫外線があたると蛍光する作用を利用することで、顔料の鉱物や染料の含有物質を調べるのが紫外線調査です。
一方で紫外線の化学的作用には、モノを劣化させたり変質させるものもあるため、使用にあたっては十分な注意が必要です。

X線調査

X線撮影装置を使用して、物体の内部構造を観察します。

X線とは

X線は1ピコ(1兆分の1)メートルから10ナノ(10億分の1)メートル程度の波長の電磁波で、その短い波長と高いエネルギーから、モノを透過する作用がある放射線の一種です。発見者の名前から、レントゲン線とも呼ばれます。その特性から、対象物を壊さずに中を撮影したり解析に利用できますが、一方で生体に有害であるため、取扱いは法律で厳しく規制されています。

X線撮影の機材

X線撮影では、放射線を厳重に管理する必要があるため、建物を含めて大がかりな設備が必要でしたが、最近では屋外等での非破壊検査に用いるために、小型で持ち運び可能な撮影装置も開発されています。

据え置き型X線撮影装置
ポータブル型X線撮影装置
X線撮影の例


須弥壇と厨子の解体修理を機に、仏像に胎内仏等が納められていないかという調査依頼に沿ってX線調査を行った例。


修理に際しての仕様決定に先立ち、虫喰い等の構造的損傷の有無について、事前調査した例。

03成分分析

各種の分析装置を使用し、絵具の顔料やバインダー(接着成分)を特定します。

蛍光X線分析・走査型電子顕微鏡調査

試料にX線を当て、含まれる元素の種類と量の情報を得る手法で、主に顔料を特定するために利用します。
同じくX線により、超高倍率で物質の表面を観察できる電子顕微鏡と一緒に使います。

赤外線分光法

試料に赤外線を当て、得られるスペクトル情報から、分子の状態を分析する手法です。
主としてバインダーにおける膠とカゼイン、または漆と油の種別の特定に利用します。

ガスクロマトグラフィー質量分析法

試料を高温で気化させ、そこに含まれる成分の情報を得る手法です。
主としてバインダーにおける膠とカゼイン、または漆と油の種別の特定に利用します。

実体顕微鏡調査

比較的低倍率の顕微鏡を使用して、試料をそのままの状態で観察する手法で、主に顔料や塗膜片の観察を行います。